保有水平耐力Quとは?崩壊機構の想定と全塑性モーメントによる算定(令第82条の3)
ルート君
保有水平耐力って、何を確認するための計算なの?
保有水平耐力Quは、建物が崩壊機構に達したときに保有する水平耐力の値です。
仮想仕事法の原理(概念)
崩壊機構における外部仮想仕事 = 内部仮想仕事
Qu × δ(各階の層間変形角の仮想位置) = Σ(各塑性ヒンジのモーメントMp × 仮想回転角θp)
Qu = Σ(Mp × θp) / δ
崩壊機構にはどんな種類があるのか
保有水平耐力Qu(kN)は、建物の各階が水平力に対して発揮できる最大耐力です。
ルート3(令第82条の3)では、全階でQu ≧ Qun(必要保有水平耐力)を確認します。
保有水平耐力は、建物が崩壊機構(塑性ヒンジが形成され変形が進む状態)に達したときの水平力です。
| 崩壊機構の種類 | 内容 | 設計上の評価 |
|---|---|---|
| 全体崩壊(梁降伏型) | 各階のはりに塑性ヒンジが形成され、全体的に変形する | 最も望ましい(DSが小さくなる) |
| 層崩壊(柱降伏型) | 特定の層の柱に塑性ヒンジが集中し、その層が先行降伏する | 避けることが望ましい(DSが大きくなる) |
保有水平耐力Quはどうやって計算するのか
Qu(保有水平耐力)の算定には、仮想仕事法(バーチャルワーク法)が一般的に使われます。
全塑性モーメントMpはどうやって算定するのか
全塑性モーメントMp(kN・m)は、断面の全て(引張・圧縮側両方)が降伏したときのモーメントです。
| 部材・構造種別 | Mpの算定 |
|---|---|
| 鉄骨造(H形鋼) | Mp = Fy × Zp(Zp:塑性断面係数) |
| RC造(矩形断面) | 令第82条の3・告示に定める方法による |
| 耐震壁 | 曲げ耐力とせん断耐力のうち小さい値 |
Qu算定後に何を確認するのか
全ての階についてQuを算定し、最も小さい階が設計上の保有水平耐力を支配します。
Qu < Qun となる階がある場合は、その階の部材を増強するか、DSの算定を見直す必要があります。
なぜ保有水平耐力の計算が必要なのか
許容応力度計算(ルート1・2)は弾性範囲での設計で、実際の大地震時に建物がどれだけの耐力を持つかを直接評価しません。
保有水平耐力計算(ルート3)は塑性域を含めた建物の実際の最大耐力を評価して、大地震でも倒壊しないことを定量的に確認します。
Qu ≧ Qun を全階で確認することが大地震への耐力保証の本質です。
Ds(靭性による低減)によって必要耐力Qunが変わるため、靭性の高い設計(全体崩壊形)を採用するほど経済的な設計が実現できます。
試験で問われやすいポイント
- 全体崩壊形(梁降伏型)の意味と評価(令第82条の3・昭55建告第1792号):各階の梁に塑性ヒンジが分散形成される全体崩壊形は、変形能力が高くDSを小さくできる(望ましい崩壊形)。層崩壊形(柱降伏型)は特定の階の柱に集中→Ds大→Qun大となり避けるべき。
- 令和4年 学科4 問25(選択肢3誤):形状特性係数Fesは「各階の剛性率・偏心率のうちそれぞれの最大値を用いた全階共通の一値」として算出するのは誤り。Fesは各階ごとに算定する。「Fes全階共通説」は頻出の誤り選択肢。
- 全塑性モーメントMp(鉄骨造):Mp = Fy × Zp(Fy:降伏点強度、Zp:塑性断面係数)。弾性断面係数Z(= I/y)より塑性断面係数Zpは大きい(形状係数 = Zp/Z > 1)。RC造・耐震壁は告示に定める方法による。
一問一答
Q. 全体崩壊形(梁降伏型)が保有水平耐力計算上「望ましい」とされる理由を述べよ。
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各階の梁に塑性ヒンジが分散して形成されるため、建物全体として大きな変形能力(靭性)を発揮できるから。靭性が高いほど構造特性係数DSを小さくでき、必要保有水平耐力Qunが小さくなる。層崩壊形は特定の階に変形が集中するため靭性が低くDS大→Qun大となり避けるべき(令第82条の3・昭55建告第1792号)。
Q. 鉄骨造H形鋼の全塑性モーメントMpはどのように算定するか。弾性の場合と何が違うか。
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Mp = Fy × Zp(Fy:降伏点、Zp:塑性断面係数)。弾性時の許容曲げモーメントMy = Fy × Z(Z:弾性断面係数)に対し、塑性断面係数Zpは弾性断面係数Zより大きいため(形状係数 = Zp/Z > 1)、Mpは弾性時より大きな値となる。
Q. 仮想仕事法による保有水平耐力Quの算定式を示し、各記号の意味を述べよ。
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Qu = Σ(Mp × θp) / δ。Quは各階の保有水平耐力(kN)、Mpは各塑性ヒンジの全塑性モーメント(kN・m)、θpは仮想回転角(rad)、δは仮想変位(m)。崩壊機構時の外部仮想仕事(Qu × δ)と内部仮想仕事(Σ Mp × θp)の等値関係から導く(令第82条の3第二号)。
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参照
- 建築基準法施行令 第82条の3(保有水平耐力計算)
- 昭和55年建設省告示第1792号(DS値・崩壊形の判定)